福岡高等裁判所 昭和29年(う)1850号 判決
当審並原審の検証の結果によれば本件事故発生現場の道路の幅員は八、五米であるので当時八重木製材所前には荷車に積まれたままの材料が約二米路上に突出しており、なお反対側路上には一台のトラツクが停車中であつたから中間の道路の幅員は僅々四米に過ぎず、その間を幅二、三米の被告人のトラツクが通過しようと云うのである。
又当時左側前方には被告人と同一方向に向け進行中の吉丸の自転車があり、その進路に当つて前示材木の突出がある情況にあつたのであるから、被告人において後方から右自転車を追抜くにおいては右の自転車に如何なる事故を発生せしむるか計り難いことは当然予見し得ることであり、かかる場合自動車運転者としては一応停車し自転車の通過を待つて後発車すべき業務上の義務があると云うべく単に警笛を鳴らし速力を落しただけで右自転車を追越した被告人はトラツクの運転者としての右義務に違反したものと云わねばならない。そして前述本件のような場合に右のような義務の存在を認めることは決して所論のように社会通念に反するものではない。
次に被告人が右自転車を追越さんとしたため自転車において前記材木によつて突然その進路を阻まれ急遽ハンドルを左に切るの已むなきに至り、その結果自動車の左側荷台辺りと自転車の後部とが接触し本件被害を発生するに到つたことは原判決挙示の証拠により洵に明であつて右認定を以て実験則に反するものとする、所論もまた採用できない。従つて本論旨は全部理由がない。
(裁判長判事 柳田躬則 判事 青木亮忠 判事 鈴木進)